mardi 20 juin 2017

グリーンランド語入門 (7) 定補語

グリーンランド語入門第 7 回の範囲は,Kölbl, Grönländisch, S. 44–47 です (全体の目次は第 1 回をご覧ください).前回は動詞の概説に加えて,他動詞が不定 (unbestimmt) の補語 (目的語) をもつ場合の活用について説明しましたが,今回はそれが定 (bestimmt) である場合を考えます.


定の補語


ドイツ語で定冠詞で表すような補語の表しかたを見ます.グリーンランド語には与格 (ニ格 Wemfall) も対格 (ヲ格 Wenfall) もありませんから,定の補語は基本形 (Grundform) に立ちます.すなわち単数では qimmeq のように語尾なし,複数では qimmit のように通常の複数語尾です.これに伴う動詞は他動詞形 (zielende Form) に立ちます.これについて注意しなければならないのは,補語が単数であるとき,他動詞形も同じように単数の補語に対応した形 (たとえば前回見た -vaa, -vaat) を選ばねばならないということです.複数であるときもやはり複数補語のための語尾 (たとえば -vai, -vaat) が選ばれねばなりません.

〔欄外注:〕他動詞形を伴う文において,動詞の基本形 (Grundform) はこの行為の目的語を特定 (bezeichnen) するのであり,行う者 (主語) をではありません〔意味不明.前回は動詞の基本形 Grundform = 不定形 Infinitiv はグリーンランド語にはないと言っていました.いったいどの形のことを基本形と呼んでいるのでしょうか (見出し形? それは -voq ではなく -vaa?)〕.目的語の定性 (Bestimmtheit) は,他動詞語尾の形態におけるその Wiederaufgreifung (再捕捉?) を通してのみ示されます.

Qimmeq taku|(v)aa. 彼は犬 (定) を見た.(Er sah den Hund.)
Qimmi|t taku|(v)ai. 彼は犬たち (定) を見た.(Er sah die Hunde.)

〔復習になりますが,-vaa のなかに「主語が 3 人称単数である」ということと同時に「目的語が 3 人称単数である」ことが含意されています.ここが印欧語の動詞の活用と根本的に異なる点です.〕

〔定・不定の〕区別を完全に明らかにするために,+mik のついた不定の補語をもつ文をもういちど与えましょう.不定の補語には,つねに自動詞形 (nichtzielende Verbform) が伴います.ここに基本形は行為の対象を (定の場合のようには) 特定せず――それ〔対象〕は +mik (具格) で表されます――,そうではなく行為者を特定します.すなわちたとえば次の angut です:

Angut qimmi|mik taku|voq. その男〔基本形〕はその犬 (具格) を見た.(Der Mann sah den Hund.)〔説明が前文とまったく食い違っています.わざわざ den に下線まで付されていますが,これまでの説明に照らせば einen「ある犬」では?〕
Nannu|mik taku|pput. 彼らはその白熊 (具格) を見た.(Sie sahen den Eisbären.)〔同上.〕

非常に重要なこととして,定の補語のとき行為者 (Hendelnde, または主語 Subjekt) はつねに従属格 (Abhängigkeitsfall) に立ちます.基本形はすでに行為の対象のためにとっておかれています.〔主語と補語のどちらも基本形だと困るので,こういうとき基本形が表すのは補語のほうだということ.とはいえ複数では基本形と従属格が同形なのですが.〕

Angut|ip qimmeq taku|(v)aa. その男 (従属格) はその犬〔基本形〕を見た.(Der Mann sah den Hund.)
Angut|it nanoq taku|(v)aat. その男たち (複数従属格) は白熊を見た.(Die Männer sahen den Eisbär.)

〔欄外注:〕他動詞を伴うときの従属格は,ドイツ語のガ格 (Werfall, 主格 Nominativ) に対応します.グリーンランド語の動詞が自動的であるときにかぎり,ドイツ語のガ格がグリーンランド語における基本形に訳されます.

こうした私たちにとってなじみのない構造は,いくつかの言語 (たとえばバスク語) には似たようなしかたで現れるもので,能格 (Ergativ) と呼ばれます.

〔欄外注:〕ここには一定の類似性が,私たちの受動形 (Leideform, Passiv) に対して存します:„Der Hund wird vom Mann gesehen.“〔その犬はその男に見られる.〕しかしながら,私たちが受動態をもっぱら文体的その他の理由からのみ用いるのに対して,能格構文はグリーンランド語においてまったく標準的なものです.

〔ここで類似しているというのは,「自動詞文の主語」と「他動詞文の目的語=受動文の主語」が同じ基本形/主格に置かれるという意味においてのことでしょう.いま「主格」と言いましたが,グリーンランド語やバスク語のような能格言語において,この格は「絶対格」と呼ばれます.〕

行為者 (主語)     対象 (目的語)   動詞
定または不定:基本形 不定:+mik/+nik 自動詞形
angut         qimmi|mik    takuvoq
定:従属格      定:基本形    他動詞形
angut|ip       qimmeq      takuaa

これまで私たちは 3 人称の他動詞語尾だけを扱ってきました.1 人称や 2 人称のものもあり,2 人称には特別な疑問形 (Frageform) があります.ここでは例として narivaa「彼はそれを食べた」をとります.

主語\補語 3 単   3 複    疑問形 3 単 3 複
1 人称単数 neri|vara neri|vakka
2 人称単数 neri|vat   neri|vatit  neri|viuk? neri|vigit?
3 人称単数 neri|vaa  neri|vai
1 人称複数 neri|varput neri|vavut
2 人称複数 neri|varsi neri|vasi neri|visiuk? neri|visigik?
3 人称複数 neri|vaat  neri|vaat

〔2 単・3 複疑問形 neri|vigit?「君はそれらを食べたか」の下線 (アクセント) 位置は原文がこのとおりですが,規則に従えばもうひとつ前のはずです.正誤不明.〕

子音幹〔の動詞〕では,-v- のかわりに -pp- が現れます:たとえば naapip|parput「私たちは彼に会った」.また r-幹では -rp- です:atuar|para「私はそれを読んだ」,atuar|pakka「私はそれらを読んだ」.それ以外ではすべての動詞について語尾は同一です.

Qimmeq taku|(v)ara. 私はその犬〔基本形〕を見た〔1 単・3 単〕.
Qimmi|t taku|(v)akka. 私はその犬たち〔複数基本形〕を見た〔1 単・3 複〕.
Nanoq taku|(v)arput. 私たちはその白熊〔基本形〕を見た〔1 複・3 単〕.
Nannu|t taku|(v)avut. 私たちはその白熊たち〔複数基本形〕を見た〔1 複・3 複〕.

2 人称以外のすべての人称について,疑問形は平叙形 (Aussageform) と同じです.

Tuttu taku|(v)iuk? 君はそのトナカイを見たか〔2 単・3 単疑問形〕.
Tuttu taku|(v)aa? 彼はそのトナカイを見たか〔3 単・3 単〕.

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